忙しい上司でもこれだけならできる!部下に主体的に考えさせる質問力
部下に主体的に考えさせるには?
アクティブリスニングの良さを知っても、現場では忙しくて部下の話をじっくり聞いている時間がないという上司の声は多数聞かれます。この記事では、様々な企業研修での話の聴き方の指導と受講者からのフィードバックを基に、忙しい上司の皆さんに向けて、(1)部下から相談があった際に「部下に主体的に考えさせる質問のしかた」(2)仕事について部下と話す際に「部下に主体的な姿勢になってもらう質問のしかた」について、時間をあまりかけずに行える方法を記載します。
(ただし、部下に安心感を与えたり、様々な気づきを引き出すのに一番いいのは時間をしっかり確保することで部下の話をじっくり聴くことだというのは忘れないでくださいね)
部下からの相談の際 オススメではない方法
オススメできる方法の前に、まずはオススメではない方法からお伝えします。このような行動になっていないでしょうか?
アドバイスを上司が進んで行う
- 部下が話し終わる前に、アドバイスを始める。
- 状況だけを聞いて、アドバイスを始める。
- 部下が話したいことを全部聞いて、アドバイスを始める。
これらの方法は、いずれも主体的に考えてもらうためにはうまい方法ではありません。コミュニケーションの方法としては1よりは2、2よりは3の方が良い方法ですが、最終的に部下の考えを聞く前に上司がアドバイスを始めるという点で共通しています。この方法を繰り返すと部下は「上司のところに相談に行けば上司がアドバイスをくれるものだ」ということを学習し、自分の頭で考えなくなってしまいます。
「部下がいつまでたっても自分で考えるようにならない」と嘆く上司の方たちの中には、上記のようなクセがある方が多く見受けられます。そのような方は、自らのクセを認識し、自分の意見を言いたくなる気持ちを抑え、まず部下の考えを聞くことから始めるようにしましょう。
自分で考えてくださいと突き返す
部下の話を聞いて自分で考えてくださいと突き返すことは、主体的に考えさせる方法として機能する可能性があります。しかし、注意も必要です。部下によっては「上司がサポートしてくれない」と感じる可能性があります。また、ただ考えるように言われても「わからないから相談しているのに・・・」と、どうしたら良いかわからず困惑してしまう可能性もあります。その結果、部下が一人で抱え込んで良い考えを出せずに時間が経過してしまい、プロジェクトが進まなくなったり、部下が精神的に不調になってしまう可能性も考えられます。単に「自分で考えて」と言うのではなく、以下に示すように実際に自分で考えられるような質問のしかたを心がけましょう。
部下からの相談の際 部下に主体的に考えさせる質問のコツ
まずは様々な場面に共通する質問のしかたを見てみましょう。まずはこれらの質問を使うだけで、部下が主体的に考え始める手助けができます。
- 部下が状況だけを説明して、上司からのアドバイスを待っているとき
「現状から1歩進んだ状態はどういう状態だと考えていますか?」
↓
「それを実現するためには何が必要だと考えていますか?」 - 部下が複数の選択肢から1つを選択できずにいるとき
「この件は最終的にどうなったら大成功ですか?」
「それぞれの選択肢のメリット・デメリットを整理するとどうなりますか?」 - 部下に上司の考えを聞かれたとき
(すぐに自分の考えを答えずに)
「あなたはこれまでのところどういうふうに考えていますか?」
次に、もう少し具体的に場面ごとの質問例を記載します。余力があれば、あなたの質問の引き出しに以下のような質問もストックすることをオススメします。
- 部下が困難な状況に直面しているとき
「この状況で最も重要な要素は何だと思いますか?」
「どのような方法が最も効果的にこの問題を解決できると考えますか?」
「過去に似たような状況を経験したことがありますか?その時はどう対応しましたか?」 - 部下が新しいアイデアを提案してきたとき
「そのアイデアの強みと弱みは何ですか?」
「そのアイデアを実現するために、どのようなステップが必要ですか?」
「成功した場合、そのアイデアがもたらす最も大きなメリットは何ですか?」 - 部下が計画を立てるとき
「その計画の達成目標は何ですか?」
「リスクは何がありますか?そのリスクをどう管理しますか?」
「計画がうまく進んでいるかどうかをどのように測定しますか?」 - 部下が進捗報告をしているとき
「このプロジェクトの進捗について、何がうまくいっていますか?」
「どの部分に改善の余地がありますか?」
「次に何をする予定ですか?」
このような質問によって「考える」という行為を一段階具体化すると、部下は漠然と「考えてください」と言われるよりもハードルを高く感じずに考え始める事ができます。
部下に主体的な姿勢になってもらう質問のしかた
先程は具体的な相談が合った場合に主体的に考えてもらう方法を解説しましたが、次にもう少し長いスパンに目を向けてみましょう。仕事に対して部下が主体的な取り組み姿勢になってもらうにはどうしたら良いでしょうか?その問いに答えるための強力なフレームワークがRyan and Deciの自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)です。SDTは、個人の動機づけと幸福感を高めるために、自律性(Autonomy)、有能感(Competence)、関係性(Relatedness)の三つの基本的な心理的欲求を満たすことが重要であるとしています。以下に、SDTの観点から部下に主体的な姿勢を持たせるための具体的な方法を解説します。
自律性(Autonomy)
自律性は、自分自身の行動を選び、コントロールする感覚を持つことです。仕事の意味付けを問いかける質問は、自律性と非常に深い関連があります。部下が自分の仕事の意味を理解し、自分でその意味を見つけ出すことができると、彼らはより自律的に行動できるようになります。具体的には、以下のような質問が自律性を促進します。
- 「このプロジェクトに取り組むことで、あなたは何を得たいと考えていますか?」
- 「この仕事を通じて、どのようなスキルや経験を身につけたいですか?」
- 「このプロジェクトの成功があなたのキャリアにどのような影響を与えると考えますか?」
- 「この仕事があなたの人生にとってどんな意味がありますか?」
また、プロジェクトの進め方に対して指示を細かくするのではなく、以下のような質問で部下に進め方を選択してもらうことも有効です。
- 「この計画に対してどのようなアプローチを取るのが最も効果的だと思いますか?」
- 「あなたが考えるベストな解決策は何ですか?」
これらの質問を通じて、部下は自分の価値観や目標を明確にし、それに基づいて行動することができるようになります。
有能感(Competence)
有能感は、自分が能力を持ち、課題を成功させられるという感覚です。部下に有能感を感じさせるためには、挑戦のレベルを適切に設定する、具体的でポジティブなフィードバックをする、学習と成長の機会を提供する、進捗に応じてサポートを提供するなどの方法があります。質問力にフォーカスすると、以下のような質問が挙げられます。
- 「どの部分が最もチャレンジングですか?」
↓
「どのようにそれに対処しますか?」(この部分は部下に答えさせるだけでなく相談に乗る) - 「これまでに同様の問題を解決した経験はありますか?」
↓
「その時の成功要因は何でしたか?」
関係性(Relatedness)
関係性は、他者とのつながりやサポートを感じることです。部下が職場での関係性を感じられるようにするためには、チームビルディング活動、共同作業、感謝の気持ちの表現、部下から上司へも含めた双方向のフィードバック、透明性のあるコミュニケーションなどが有効です。質問力にフォーカスすると、以下のような質問を活用できます。
- 「何か困っていることはありますか?私はどのようにサポートできますか?」
- 「このプロジェクトで他のメンバーとどのように連携していますか?」
↓
上手く連携できていなければ相談に乗る。 - 「チーム全体でどのように協力してこの目標を達成しますか?」
↓
協力ができるように支援する。
注意!これらの質問はいつでも誰にでも使えるわけではない
これまでに紹介した質問方法は、部下の主体性を引き出し、彼らが自分で考える力を育むために非常に有効です。しかし、これらの方法を効果的に使用するためには、重要な前提条件が必要です。ここでは、その前提条件と注意点について解説します。
信頼関係があるのが前提
まず第一に、上司と部下の間にしっかりとした信頼関係が築かれていることが前提です。信頼関係がない状態でこれらの質問を行っても、部下は本音を話したり、自分の考えを深く掘り下げたりすることが難しくなります。信頼関係を築くためには、普段から部下に対して誠実であること、オープンなコミュニケーションを心掛けることが重要です。また、部下の話を聴く姿勢や態度も信頼関係の構築に寄与します。
信頼関係があると部下は以下のような感情を持つことができます。
- 自分の意見や考えを自由に話せる
- 上司が自分をサポートしてくれている
- 自分の意見や考えが尊重されている
部下をよく知ること
部下と信頼関係を築き、部下に効果的な質問を投げかけるには、どの部下にも同じように接すればよいというわけではありません。部下一人ひとりの個性や特性をよく理解することが重要です。各部下がどのような価値観を持ち、どのような動機づけで働いているのかを知ることで、より効果的な質問を投げかけることができます。たとえば、ある部下は挑戦的な課題にやりがいを感じるかもしれませんが、別の部下は安定した環境でこそ力を発揮できるかもしれません。
スキルだけ発動すると関係性が悪化する可能性あり
質問の技術やコミュニケーションスキルだけを発動することには注意が必要です。これらのスキルを使うだけではなく、部下との関係性を大切にしながら質問をすることが求められます。もし関係性を無視してスキルだけを発動すると、部下は「形式的な質問」「上司は自分を操ろうとしている」と感じてしまい、逆にモチベーションが下がったり、関係性が悪化する可能性があります。
まとめ
部下に主体的に考えさせるためには、上司が適切な質問を投げかけることが非常に有効です。まず、部下からの相談の際には、自分のアドバイスをすぐに提供するのではなく、部下の考えを引き出す質問を行うことが重要です。例えば、「現状から1歩進んだ状態はどういう状態だと考えていますか?」や「それを実現するためには何が必要だと考えていますか?」など、部下が自分で考え、解決策を見つけ出す手助けをする質問を心がけましょう。
また、日常の仕事において部下に主体的な姿勢を持ってもらうためには、自己決定理論(SDT)を活用し、自律性、有能感、関係性を満たすように関わることが効果的です。例えば、部下がプロジェクトに取り組む意義や目標を問いかける質問や、部下のスキルや経験を引き出す質問をすることで、部下の自主性を高めることができます。
ただし、これらの質問を効果的に使うためには、上司と部下の間に信頼関係が築かれていることが前提です。また、部下一人ひとりの個性や特性を理解し、関係性を重視しながら質問をすることが求められます。形式的な質問だけに頼らず、部下との関係性を大切にしながら、部下の主体性を引き出すことが重要です。
このような質問の技術を駆使することで、部下は自分自身で考え、行動する力を育むことができ、上司としても忙しい中でも部下の成長を支援することができるでしょう。
参考文献
Edward, L. D., Edward, L. D., Anja, H. O., Anja, H. O., Richard, M. R., & Richard, M. R. (2017). Self-Determination Theory in Work Organizations: The State of a Science. https://doi.org/10.1146/annurev-orgpsych-032516-113108
藤田大樹(ふじた だいじゅ)
1982年、北海道札幌市出身。京都大学総合人間学部、名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻を経て、IT企業に就職。エンジニアとして先端技術のシミュレーション研究開発プロジェクトにアサインされるも、心の健康を害し、離職。カウンセラーと出会い、回復したことをきっかけに、心理学の分野に興味をもつ。表層化された課題を解決するだけではなく、本質的な問題を解決し幸せになって欲しいと願うようになり、ICF(国際コーチ連盟)プロフェッショナル認定コーチ、EAPメンタルヘルスカウンセラーの資格を取得し、エグゼクティブ・コーチとして独立。多くの経営者らの伴走支援をする中で、Livelyと出会い、意気投合し、研究開発チームのリーダーとしてLivelyに参画する。現在は英国のストラスクライド大学大学院で、心理学を学び、事業に活かしている。